えとせとら本棚

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【王様のブランチ】夏川草介さんインタビュー<スピノザの診察室>(2023年10月28日 )

 

王様のブランチ・BOOKコーナーで紹介された本を紹介します。

スピノザの診察室:夏川草介

インタビュー

夏川さん:

人が生きていく生の問題と、亡くなっていく死の問題。医者の視点から言えば、治療の問題と、看取りの問題をこれまで見て来た。この二つの問題だけでは、どうしても乗り越えられない人間の幸福の問題。患者さんたちが笑顔で過ごすには、何が足りないのかな?っていうのが、今回の作品で軸になっている。

 

―――自分の人生について、もう一度ちゃんと考えようと思いました。

 

夏川さん:

あんまり真面目に深くかんがえちゃいけない。読み物として楽しくなきゃいけない。その点はとても注意しました。医療の切実な問題は触れたくない、って人もいらっしゃいます。それをある意味楽しく面白く読んで、生と死の問題になんとなく向き合っていける作品を心掛けたつもりではあります。そういう風に言っていただければ、僕的には達したような気がします。ありがとうございます。

 

 

 

 

―――今回、患者さんたちの看取り方もすごく重要な要素になっていますが、夏川さんの体験がベースなのでしょうか?

 

夏川さん:

現場では医療と執筆を完全に分けていますが、執筆の基本にあるのは、医療現場で見た景色。もちろんそのまま書いているわけじゃないですけれども、現場でうまくいけなかったことを、小説ではこんな風に上手くいったのではという、一つの理想像として書いたり、そういうことの繰り返しの作業です。

 

実際、こういう方に出会ったことがある。余命が2か月しかないのに、私が回診に行くと、毎日あんぱんなどをくれる。「センセイ、ちゃんと食べてないでしょ?」って。余命とは関係なく、周りの人たちを幸せにしてくれている人。こういう生き方をする人が増えれば、余命が限られていても、愉快な時間を過ごせる空間を作っていけるのではないかと。現場で出会うこういう人たちが、大事なことを教えてくれる。

 

*命と向き合う医療の現場から、幸せに生きるヒントを教えてくれる1冊です。

 

ひとこと

優しい口調と、落ち着いた物腰から、大変お人柄が感じられるインタビューでした。というか、私は夏川さんがお医者さんだってことを今回初めて知ったのですが、お話を聴いていると、お医者さんもただ患者さんを診るだけでなく、たくさんの想像力が必要な職業であるということが窺えました。本を書くことは、当然想像力が要りますが、医療の現場もそうなんですね。そう考えると、作家と医者、ふたつのことをされているのも納得がいきました。万人に出来ることではありませんがねぇ。私は一冊だけ夏川さんの小説「始まりの木」を読みましたが、民俗学方面の話だったので、医学の方だったとは、本当に気づきませんでした。それを知れただけでもインタビューを聴いた甲斐がありました(笑)それでは、また来週。

夏川草介プロフィール

1978年生まれ、大阪府出身。信州大学医学部卒。長野県にて内科医として地域医療を支える。2009年『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞受賞、作家デビュー。コロナ禍に入り、医療現場の奮闘を描いた『臨床の砦』(2021年)、『レッドゾーン』(2022年)を緊急出版した。